スキーマ
スキーマとは、過去の経験や外界についての構造化された知識を構成するモジュールとして想定される概念であり、認知過程を手式に基づいて広く用いられる理論的な概念になります。
知覚・言語理解・記憶の想起などの過程におけるトップダウン型処理の進行の説明に中心的な役割を果たしています。
スキーマの概念はイギリスの心理学者バートレットによって心理学に導入され、その後多くの研究者によって展開されてきました。
バートレットは、事象が認知され記憶されるときに、組織化された全体としての過去の経験に強く支配されることを指摘しました。その際、このような働きを表すワードとして「スキーマ」を用いました。
バートレットの20年後、1950年代には発達心理学の分野でも、スイスのピアジェが子供の認知発達において生じる変化を理解するのに、「シェマ」という一種のスキーマの概念を用いています。
ピアジェの基本的な考え方は、環境(外界)の論理構造が「同化」と「調節」を通して認知構造(シェマ)に取り入れられるというものです。
スキーマは、ヒトが情報を理解するうえで、重要な役割を果たすことがさまざまな実験でわかっています。
スキーマを「活性化」させることによって、ヒトは次に来るシーンを予測したり、行間を読んだり、またスキーマに頼りながら過去の経験を思い出したりします。
「たぶんこうなるだろう」という予見を与えるのもスキーマの機能だとされています。
スキーマの持つ共通特性
スキーマの持つ共通特性に、①「変数を持つ」ということがあります。
変数を持つことにより、具体的な情報も抽象的な情報も扱えるという柔軟性を持つことができます。
スロットに変数をいれることにより、異なった場面や対象に対処できることになります。
スロットとは、日常的な物事についての概念的知識をモデル化するのに、その属性のもつ値のはいる変項のことをあらわします。
例えば、「渡す」という動詞の概念に関するスキーマは、「渡し手」、「受け手」、「品物」の3つの情報が不可欠となり、それら相互の関係も変わりません。
でも、「渡し手」が誰であるか。「品物」が何だとは固定されておらず、変数になります。
入力する情報はいずれかの変数が割り当てられますが、適切な値が存在しない場合はデフォルト値が与えられます。
デフォルト値とは、推定される最も典型的な値になります。
次に、②「埋め込み構造を持つ」があり、スキーマは互いに排他的な情報のモジュールではなく、互いに埋め込まれて存在するということがあります。
スキーマは他のスキーマを下位スキーマとして埋め込むことができ、階層化されます。
例えば、「車」スキーマは、窓、エンジン、座席、タイヤ、ハンドルなどの要素で構成され、「エンジン」スキーマはさらにピストン、バルブ、カムシャフトなど一群のサブスキーマを含みます。
③あらゆる抽象度をもつ。
意味記憶の研究が語彙を内的構造を表現するのに対し、スキーマは具体的なスキーマから抽象的なスキーマまであらゆる抽象度の情報を網羅します。
行動系列、プラン、物語の筋書きのような抽象的レベルから、知覚的要素のような具体的なレベルに至るまでの知識が表現されます。
④抽象的な規則によって定義として構成されるのではなく、むしろ毎日経験する経験や何度も繰り返し行う体験的な知識を表現します。
スキーマが表現する知識は辞書の記載事項のように定義的ではなく、むしろ百科事典的になります。
スキーマの種類
①人(パーソン)スキーマ
他者の反応や特性、他者の行動目標についての知識のまとまり。
他者の行動の解釈・推測が可能になります。
②自己(セルフ)スキーマ
自己、あるいは自己の特定の側面についての知識のまとまり。
自己に関連する情報の処理を促進します。
③役割(ロール)スキーマ
職業、地位など社会的役割や社会的カテゴリーについての知識のまとまり。
特定の集団や個人に対する判断やステレオタイプ的認知の基盤となります。
④出来事(イベント)スキーマ
ある社会状況における社会的出来事の系列に関する知識のまとまり。
出来事に関する情報処理が促進され、相手の次の反応が予測可能となります。
⑤因果スキーマ
物事が生じた原因とその結果に関する認識の枠組みで、因果関係に関する過去の経験や知識のまとまり。
情報が不足している場合にも原因や結果を推論することが可能になります。