ストレスの状態を把握することが重要

順天堂大学医学部付属順天堂東京江東高齢者医療センター
麻酔科学・ペインクリニック講座
光畑裕正 教授


現在の社会環境では職場でのストレスがたまりやすい状況であると思われます。
ストレスを適切に管理するためには、現在自分自身がおかれている環境・状況によるストレスの状態を的確に知ることが第一歩だと思います。


2014年6月19日に国会で可決・成立した「労働安全衛生法の一部を改正する法案(通称:ストレスチェック義務化法案)」は、メンタルヘルス対策の充実・強化等を目的としており、従業員数50人以上の全ての事業場でのストレスチェックの実施を義務付けています。
ストレスチェックを行うことにより従業員が自分自身のストレスの状態を早期に把握し、適切に管理できる方法であると考えられます。


私の専門の痛みの治療で最も頻度の多いものは腰痛です。
厚生省の統計では平成23年に4日以上の休業を要する腰痛は職業性疾病の6割を占める4,822件発生していると報告されています。
腰痛のうち明らかな病因により説明できる腰痛は約15%程度で、原因が明確でない腰痛である非特異的腰痛が85%とされています(日本整形外科学会と日本腰痛学会の腰痛診療ガイドラインによる)。


非特異的腰痛にはストレスが原因となっている強い証拠があり、認知行動療法などの精神医学療法が有効であると上記のガイドラインに示されています。


厚生省の「職場における腰痛予防対策指針」のはじめには「腰痛の発生要因には、腰部に動的あるいは静的に過度の負担を加える動作要因、腰部への振動、温度、転倒の原因となる床・階段の状態等の環境要因、年齢、性、体格、筋力、椎間板ヘルニア、骨粗しょう症等の既往症又は基礎疾患の有無等の個人的要因、職場の対人ストレス等に代表される心理・社会的要因がある」と記載されている。


また、職場での腰痛による休業は大きな経済的損失につながることは日本のみならず欧米でも以前から指摘されています。


原因が明らかに思えるような腰痛においても職場の対人ストレス等に代表される心理・社会的要因が大きな原因になりうることを認識し、ストレスの状態を各個人が精確に把握することで非特異的腰痛を防ぐことができます。


うつ状態などの精神的疾患のみならず、腰痛のような身体的な疾患と考えられているものもストレスの状態を的確に把握することで予防することが可能であると考えられます。

  • 順天堂大学医学部付属順天堂東京江東高齢者医療センター
    麻酔科学・ペインクリニック講座 教授
    【専門分野】
    ペインクリニック、癌性疼痛管理、術後疼痛管理、心臓血管系麻酔、脳神経麻酔、救急医学、ショックアナフィラキシーの病態機序、敗血症性ショック